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【専門家インタビュー】認知症予防薬・予防食品の開発を通して認知症のない社会を目指す

大阪市立大学大学院医学研究科認知症病態学 研究教授
株式会社メディラボRFP
セレブロファーマ株式会社
富山貴美

 

大阪市立大学大学院医学科認知症病態学 研究教授 富山様は大学や大学発ベンチャーでの研究を通して認知症予防薬・予防食品の開発を行っています。

今回はその内容について富山様に詳しくお伺いしました。

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認知症予防薬の開発を行ったきっかけ

編集部:まず認知症予防薬の開発に至った経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか。

富山様:はい。認知症患者は年々増えており、社会的なコストも今後大幅に増えると言われています。しかし、有効な治療薬はいまだ存在しておりません。

認知症の原因として一番多いのはアルツハイマー病です。他にも認知症の種類は色々あるのですが、どれも脳内に悪質なたんぱく質が蓄積することによって発症するものです。例えばアルツハイマー病だったら、アミロイドβやタウなどのたんぱく質があります。

ですので、その原因となるたんぱく質を脳から除去すれば、認知症は治るはずなのですが・・・その薬の開発は全部失敗しています。

 

編集部:なぜ薬の開発は失敗に終わってしまうのでしょうか。

富山様:なぜかというと、アミロイドβの蓄積は認知症を発症する20年以上も前から起こっており、発症した時にはもうすでに多くの神経細胞は死んでしまっているのです。発症後にアミロイドβを取り除いても、死んでしまった神経細胞は元には戻りません。

つまり、神経細胞が死んでしまう前の発症する前の段階での予防が大事ということです。

 

編集部:なるほど。そこで予防薬が必要となってくるのですね。

富山様:そうです。そこで私たちが開発したのが認知症予防点鼻薬です。

まず、私たちの研究室で認知症予防薬を開発するにあたって定めた条件があります。

それは

1.安全であること

2.安価であること

3.自分自身で服用可能であること

4.脳への移行性が高いこと

5.原因たんぱく質のオリゴマーに有効であること

です。

オリゴマーは脳に悪影響を及ぼしているたんぱく質が凝集してできたものになります。

この予防薬をつくるにあたってヒントとなった事例として、ハンセン病の患者さんは認知症が少なく、老人斑も少ないといった論文がありました。そこで、ハンセン病薬の中にアミロイドβの凝集を抑えるものがあったのではないかという仮説を立てました。調べてみたところ、リファンピシンという薬がそのような効果を持っていました。

リファンピシンには肝障害や薬物相互作用などの副作用がありますが、それは口から投与することで起こるのではないかと考えました。そこで、鼻から投与した場合そのまま脳へ移行するので、より安全なのではないかと考えました。

実際にモデルマウスを利用して、各投与法を有効性、安全性、脳移行性、非侵襲性の4点の面から比較しました。その結果、鼻からの投与つまり経鼻投与が一番効果的であるという結果になりました。(図1)

図1:投与法の比較

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株式会社メディラボRFP設立

富山様:そして株式会社メディラボRFPを2018年に立ち上げ、ML1808の開発を行うことにしました。

その際に、リファンピシン単体だと副作用の心配もありますし、リファンピシンにはないプラスアルファの効果も加えたいということから、様々な文献を調べたところ、レスべラトロールというものが良いのではないか、と思い当たりました。

レスベラトロールはサプリメントなので安全性も非常に高いですし、リファンピシンの副作用を抑える作用もあります。さらに、リファンピシンにはない作用として、脳由来神経栄養因子の発現を誘導し、インスリン感受性も上げるので、長生きすることにも繋がります。

 

編集部:そうなんですね。実際に実験も行ったのでしょうか。

富山様:はい。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症の3種類のモデルマウスを使用して行いました。それぞれのモデルマウスに1ヵ月間経鼻投与後、モリス水迷路で認知機能を測定しました。結果はこのようになりました。(図2)

図2:認知機能改善作用

その結果、リファンピシン単剤を投与するより、合剤のML1808を投与した方が、同じ用量でも効き目が強いことが分かりました。

オリゴマー除去作用も確認してみたところ、合剤を投与すると老人斑には影響しなかったのですが、アミロイドβ、タウ、αシヌクレインすべてのオリゴマーを除去することが分かりました。脳由来神経栄養因子の発現も、ML1808の投与で増加していました。

肝心の肝保護作用に関しても、AST(注)の数値はリファンピシン単剤だと少し上昇するのですが合剤のML1808だと正常の数値のままです。(図3)

注:肝酵素の1つで、肝障害があると血液中で上昇する。

図3:肝保護作用

最後に今回用いたマウスの投与量を人の投与量に換算したところ、相当低い投与量で認知症予防効果が発揮されるということが分かりました。(図4)

図4:投与量

天然物由来の新しい認知症予防食品の開発

富山様:実はもう一つの会社のセレブロファーマ株式会社で認知症予防食品についても開発を進めております。

一般の薬局で購入でき、自ら進んで服用することで認知症予防が出来るものを提供したいと考えております。

編集部:新しいですね。どのようにして会社を設立して食品を開発するにいたったのでしょうか?

 

富山様:病院にかかる方って、認知症の症状を発症した後に病院にかかりますよね。実はその頃にはもう神経細胞は死に始めているんですよ。発症後に予防薬を飲んでもタイミング的には遅いんですね。

そこで、まだ物忘れなどの症状は起きていなくても、中高齢者の方々が積極的に日常生活の中から認知症予防を心がけることができるように、認知症予防食品が必要なのでは、と考え、会社を立ち上げました。

第一世代から食品をつくってきたのですが、今第三世代と第四世代を開発中です。それぞれ必要投与量が少なくなってきています。だんだん効果を高めてきているという状況です。アルツハイマー病、前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症、どのマウスに投与しても、正常のレベルとほぼ同じレベルまで認知機能が改善していますし、オリゴマー除去効果に関しても減っています。

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食品・医薬品を用いた認知症克服のストラテジー

富山様:こちらは先ほど説明した予防薬・予防食品をどの段階で使うのかを表している図になります。(図5)

図5:食品・医薬品を用いた認知症克服のストラテジー

まず、日頃からの予防というところで食事・運動・睡眠とありますが、食事のところを担当しているのが、セレブロファーマ株式会社で開発している認知症予防食品です。

そして健康診断でバイオマ―カーに異常が見つかった方は病院で精密検査を受けます。それで、脳の中にアミロイドβやタウが蓄積していると分かったら、株式会社メディラボRFPで開発した予防薬を処方してもらいます。

薬を処方し、だんだん脳の中からたんぱく質が消えていくと、普段の生活に戻ります。

運悪く病理が進行してしまった場合は、治療薬を処方し、発症を防止します。治療薬のタウ抗体は、日本企業との共同研究で開発したものですが、現在はライセンスアウト先の外国の大手企業が開発中です。

このように普段の生活からは認知症予防食品、健康診断や精密検査で異常が見つかった場合は認知症予防薬、もっと病気が進行してしまった場合は治療薬、という3段階で私たちがつくった薬剤で認知症を克服していこうと研究を進めております。

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今後の課題と最終的な目標

編集部:今後の課題などはございますか?

富山様:今後の課題なのですが、1つ目に超早期診断や薬効評価のためのバイオマーカー・診断法を確立する必要があります。現在世界で研究が進んでおりますので、もし良いバイオマーカーが見つかったら健康診断にも使えるし私たちの薬効評価にも使えるようになります。

2つ目に、現在の制度では病気を予防するための薬は保険が利きません。なのでアミロイドβやタウが蓄積した段階で病気と見なすことが出来るように、疾患の定義の見直しや予防医療に対する診療報酬の見直しも今後必要になると考えております。

 

編集部:最終的に富山様はどのようなゴールを目指していますか?

富山様:日頃からの予防、脳の異常が検出された時点からの予防、発症してしまった後の治療。この3段階で色んな治療法や対処法を提案して、認知症を克服していくというのが最終的なゴールになります。

薬の使い方

健達ねっとをご覧いただいている方へのメッセージ

編集部:最後に健達ねっとをご覧いただいている方に一言お願いします。

富山様:そうですね。私たちも一生懸命認知症克服のために日々研究をしているのですが、やはり途中で予期せぬことが起こったりして上手く進まないことが多く、患者さんを失望させてしまうこともあるかとは思います。

希望を持ってください、とは今の段階では言えないのですが、期待に応えられるように今後も頑張っていきますので、患者さんやご家族の方、介護の方も頑張っていただきたいです。

大阪市立大学大学院医学研究科認知症病態学 研究教授 セレブロファーマ株式会社(2017年設立) 代表取締役 株式会社メディラボRFP(2018年設立) 取締役

富山 貴美とみやま たかみ

日本認知症学会
北米神経科学会
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